東京高等裁判所 平成9年(行ケ)311号 判決 1998年11月18日
東京都板橋区大山東町32番17号
原告
株式会社白寿生科学研究所
代表者代表取締役
原昭邦
訴訟代理人弁理士
松永善蔵
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 伊佐山建志
指定代理人
柿崎良男
同
吉村宅衛
同
小林和男
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成5年審判第21772号事件について、平成9年10月13日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
株式会社白寿生科学研究所(本店所在地・東京都港区虎ノ門1丁目11番2号、以下「出願会社」という。)は、平成2年8月15日、名称を「動物用飼育保健、治療器」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願平2-215421号)が、平成5年9月20日に拒絶査定を受けたので、同年11月18日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成5年審判第21772号事件として審理したうえ、平成9年10月13日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年11月6日、出願会社に送達された。
出願会社は、平成10年4月1日に原告(同日前の旧商号・株式会社ハクジュサービス)に吸収合併され、原告は、本願出願に係る出願会社の地位を承継した。
2 本願発明のうち、特許請求の範囲第1項記載の発明(以下「本願第1発明」という。)の要旨
小動物が自由に出入できるようにした施設に、一極または二極またはそれ以上の電極を取り付け、これらを電圧発生部に接続したことを特徴とする動物用飼育保健、治療器。
3 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願第1発明が、実願昭48-121253号(実開昭50-64583号)のマイクロフィルム(審決甲第1号証、本訴甲第4号証、以下「引用例」という。)に記載された考案(以下「引用例考案」という。)と区別することができないから、本願発明は、特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
1 審決の理由中、本願第1発明の要旨、引用例記載事項及び本願第1発明と引用例考案との一致点の各認定は認め、本願第1発明と引用例考案との相違点の認定及びこれについての判断は争う。
審決は、本願第1発明及び引用例考案の技術事項を誤認し、本願第1発明と引用例考案との相違点の認定及びこれについての判断を誤った結果、本願第1発明が引用例考案と同一であるとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
2 取消事由(相違点の認定及びこれについての判断の誤り)
審決は、「本願第1発明では、治療が行われる施設が『小動物が自由に出入りできるようにした施設』であるとしているのに対し、甲第1号証のそれ(注、引用例考案)では単に檻とか籠とかいうものである点で表現上相違している」(審決書5頁8~12行)旨、本願第1発明と引用例考案との相違点を認定したうえ、その相違点について、「本願第1発明の『小動物が自由に出入りできるようにした施設』とは明細書や図面に示されるような開閉扉を有するケージ(即ち、濫や籠)を含むものと解さざるを得ない(扉は開いた状態で使用するとしても、本件が方法の発明ならともかく、治療器という物の発明である以上、そうみざるを得ない。)。・・・そうしてみると、この点(上記表現上の相違点)において両者が実質的に相違しているということはできない。」(同6頁5~末行)と判断したが、その相違点についての判断は誤りであり、当該相違点は実質的に相違するものであるから、「表現上相違している」とした点で相違点の認定も誤りである。
すなわち、一般家庭において、犬、猫等の小動物をペットとして飼育する場合、屋外に犬小屋を設けたり、屋内に犬小屋、市販のペット用ケージ、トレー、木箱、段ボール箱などの施設を用意するのが一般的であり、動物は、休息したり、睡眠を取ったりする場合には、これらの決まった場所で行なうという習性を有している。これらの施設は、動物が休息や睡眠を取りたいときに自由に出入りすることができるものでなくてはならない。本願発明は、このように、動物が自由に出入りすることができ、そこで休息や睡眠を取るような施設に電極を取り付けることにより、動物の習性を利用し、一切人手を煩わすことなく、また動物をその意思に反して拘束することもなく、動物が自然に生活しているだけで、治療が行なわれる電位治療器を提供するものである。
審決は、本願明細書(平成8年11月25日付手続補正書による補正後のもの、以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項第2項及び発明の詳細な説明に「施設を小動物のケージなどとしたことを特徴とする請求項1項記載の動物飼育保健、治療器」と記載され、また、発明の詳細な説明及び図面第2~4図に開閉扉を有するケージが記載されていること(審決書5頁14行~6頁4行)から、上記めとおり、「本願第1発明の『小動物が自由に出入りできるようにした施設』とは明細書や図面に示されるような開閉扉を有するケージ(即ち、檻や籠)を含むものと解さざるを得ない」と認定した。しかし、特許請求の範囲の請求項第2項は、同第1項の実施態様項であるから、その「施設」はいかなる場合でも動物が自由に出入りすることができるものでなければならない。また、本願発明を試作的に実施する際に購入した、市販の開閉扉が付いた一般的なケージを示したために、本願明細書には、上記のような開閉扉が付いたケージが記載されることとなったが、本願明細書の発明の詳細な説明に「また開閉扉(4)も・・・通常は開いた状態で使用する。」(甲第3号証4欄19~20行)と記載され、図面第3、第4図には開閉扉の開いたものが示されているとおり、本願第1発明の「小動物が自由に出入できるようにした施設」とは、開閉扉が付属していたとしても、それを開いた状態の物(施設)を意味する。したがって、これらの点を看過した審決の上記認定は誤りである。
これに対し、引用例に「加療を要する動物をゴム電導板13上に乗せて5~10分の帯電治療を施すのであつて、この電導板及絶縁板よりなる極板に対しては、檻を設けてその下敷として使用し、また小動物に対しては、籠内に敷設するを可とす。」(甲第4号証2頁17行~3頁1行)と記載されているとおり、引用例考案は、人手によって動物を「乗せる」ものであり、動物が、人手によらずに、その習性によって自ら「乗る」という思想を窺うことはできない。また、「檻」、「籠」とも、動物が自由に移動することのないよう、監禁しておくための施設であり、かつ、審決が「檻や籠には動物を出入りさせるための開閉扉を有するものは極く普通のものであるから、甲第1号証(注、引用例)にはそのようなことは記載されているに等しいということができる。」(審決書6頁14~17行)と認定するとおり、檻や籠には開閉扉があって、その使用(治療)に当たっては、人手によって扉を開閉して、動物の出し入れを行なうものである。したがって、引用例考案は、動物が「自由に出入りできるようにした」施設とは対極をなすものである。
すなわち、引用例考案の治療器は、人手によって扉の開け閉めをして、動物を当該治療器内に入れ、動物の意思に関わりなく一定時間拘束し、治療終了時には再度人手によって動物を治療器から取り出すという手順によってその使用をするものである。動物が「自由に出入りできるようにした」施設であることは、引用例に全く記載がない。
このように、本願第1発明は、一切人手を煩わすことなく、動物を日常のとおり飼育しているだけで動物の治療を行ない得るものであるのに対し、引用例考案は、動物の治療を行なうのに人手をかける必要のあるものである。そして、このような治療器は、2~3回使用しただけでその治療、保健効果を得られるものではなく、1~数か月の間、毎日使用することによって初めてその効果が表われるものであるから、その間人手をかける場合と、かけない場合との労力の差は著しいものがあり、本願第1発明は引用例考案と比較して卓越した効果を奏するものである。
被告は、物の発明として捉えた場合に、本願第1発明と引用例考案との間に相違はないと主張するが、「小動物が自由に出入りできるようにした施設」であることが本願第1発明の必須の構成要件であり、この構成を備えておらず、動物が自由に出入りできない引用例考案とは、物の発明としてその技術思想を異にするものである。
審決は、本願第1発明の「小動物が自由に出入りできるようにした施設」という構成の意義を誤認し、その誤認に基づいて、本願第1発明と引用例考案とがこの点で実質的に相違しているということができないものと判断したものであって、その判断が誤りであることは明らかである。また、本願第1発明と引用例考案とはその点で実質的に相違しているから、「表現上相違している」とした点で審決の相違点の認定も誤りである。
第4 被告の反論の要点
1 審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(相違点の認定及びこれについての判断の誤り)について
原告は、審決の「本願第1発明の『小動物が自由に出入りできるようにした施設』とは・・・開閉扉を有するケージ(即ち、檻や籠)を含むものと解さざるを得ない」との認定が誤りであり、本願第1発明は小動物が自由に出入りできるようにした施設であるのに対し、引用例考案は、動物の意思に関わりなく人手によって動物の出し入れをするものであって、動物が自由に出入りできるようにした施設ではないから、両者が実質的に相違しないものとした審決の判断も誤りであると主張する。
しかしながら、特許法2条3項各号は、発明を「物の発明」、「方法の発明」、「物を生産する方法の発明」の3つに分け、それぞれについて「実施」に当たる行為を規定しているが、本願第1発明は、このうちの物の発明に当たることが明らかであり、そうであれば、その構成は物の発明として捉えなければならない。
引用例には、引用例考案について、動物が「自由に出入りできるようにした」施設であることを明示した記載はない。しかし、動物の出入りをどうするか、また、施設に付属する開閉扉を通常開け放しにしておくか、閉めておくか等は、その施設のいわば使用方法に関する事項であり、物の発明の構成を直接規定するものではない。本願明細書は、本願第1発明の施設に開閉扉が存在しないものと規定するものではなく、存在する扉が開いているか、閉じているかは、物の発明としての本願発明と引用例考案との同一性を判断する際の妨げとなるものではない。このことは、本件明細書の図面第2図に開閉扉が閉じた状態のケージが示され、図面の簡単な説明の欄に「第2図はこの発明の動物用飼育保健、治療装置における小動物用のケージの全体斜視図」(甲第3号証5欄10~11行)と記載されているとおり、扉が閉じた状態のケージ(この状態では当然小動物が自由に出入りすることができない。)も、本願発明に係る物として記載されていることからも明らかである。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由(相違点の認定及びこれについての判断の誤り)について
(1) 本願明細書(甲第3号証)には、「この発明は動物を拘束したり、動物に器具を取り付けたり、特別に施術したりすることなく、動物が普通に生活している間に、すなわち、動物が休息したり就寝したりする場合は、常に一定の場所で行うという習性を利用して、電界(電位)治療による保健、治療などを行うことができるところの手軽で安全な動物用飼育保健、治療装置を提供することにあり、とくに犬や猫のように常に動き回るような動物には有効である。」(同号証3欄8~15行)、「この発明では動物が通常の生活をしている過程において、一定の限定空間に入ったとき、たとえば飼小屋、ペット用寝台、動物用ケージなどに出入りする動物が、ケージなどに入ったときに人手を要せずに治療できるようになる。」(同欄37~41頁)、「第2図は、合成樹脂材で形成したケージ(1')に、その天井に電圧発生部(2)を取り付け、それにつながる主電極(3)を配置する。底面には対電極(3')を付設する。(a)、(a')は結線用の耐高圧絶縁コードである。また開閉扉(4)も絶縁材で形成し、通常は開いた状態で使用する。(後述の第3図、第4図参照)」(同4欄14~19頁)との各記載があり、図面第2図には開閉扉(4)が閉まった状態の小動物用ケージが、第3、第4図には第2図と同種のケージであって開閉扉(4)の開いた状態のものが示されている。
これらの各記載及び図面の表示を参酌すると、本願第1発明の要旨の「小動物が自由に出入りできるようにした施設」の意義は、小動物が人手を煩わせることなく自発的に出入りすることが可能であるような構造の施設をいうものと解すべきであるが、「小動物が自由に出入りできるように」するための物理的に特別な構成を要するものではなく、開閉扉のついた通常のケージ(籠)であって、単にその扉が開いた状態であるものも本願第1発明の「小動物が自由に出入りできるようにした施設」の構成に含まれるものとされていることが認められる。
(2) 他方、引用例(甲第4号証)には、「交流電源を倍電圧整流回路によって整流し、これを出力電圧の選択できる分割器を経て牛馬等の家畜を乗せ得る大きさに形成したゴム電導板13に接続し、電導板の下面に絶縁板12を敷設してなる動物用直流静電治療装置。」(同号証明細書実用新案登録請求の範囲)である引用例考案が記載され、考案の詳細な説明には、「本考案は、交流を直流として、この電位を牛馬等の家畜或は愛玩用小動物に印加することにより、動物体内に負イオンを誘起させる動物用直流静電治療装置に関するものである。」(同1頁11~14行)、「図面は、静電治療装置の回路図で、これに動物用のマツトを接続したものである。」(同2頁4~6行)、「かくして得られた負電圧は、絶縁板12上のゴム電導板13に接続して、加療を要する動物をゴム電導板13上に乗せて5~10分の帯電治療を施すのであつて、この電導板及絶縁板よりなる極板に対しでは、檻を設けてその下敷として使用し、また小動物に対しては、籠内に敷設するを可とす。」(同2頁15行~3頁1行)、「本考案は、以上述べたように、牛馬等を乗せ或は横臥するに適するような大きさのゴム電導板を形成してこれを静電治療器の出力側に接続し、電導板下面には、絶縁板を取付けて、治療中は、家畜が確実に電位の印加が持続できるようにしてあるので、簡単に家畜の静電治療法が実施できるものである。」(同3頁13~19行)との各記載がある。また、引用例の添附図面には、静電治療装置の回路に接続されたゴム電導板13及び絶縁板12が図示されているが、檻、籠に相当するものの表示はない。
これらの記載によると、引用例考案は、檻又は籠内に、静電治療装置の回路に接続されたゴム電導板及び絶縁板を下敷きとして敷設したものと認められる。しかしながら、審決の認定(審決書6頁14~17行)のとおり、檻、籠には開閉扉が設けられるのが通常であり、かつ、開閉扉は、これを動物の出し入れの際にだけ開け、それ以外の時間は閉めておくこともできるし、また、常に開け放したままにしておくこともできるものであるところ、引用例中に、開閉扉を常に開け放したままにしておくことを排除するものと解されるような記載は特に存在しない。
この点につき、原告は、「檻」、「籠」とも、動物が自由に移動することのないよう、監禁しておくための施設であると主張し、また、檻や籠には開閉扉があって、その使用(治療)に当たっては、人手によって扉を開閉して、動物の出し入れを行なうものであるとも主張するが、本願第1発明において開閉扉のついた通常のケージ(籠)をその扉が開いた状態にしておくことと同様、「檻」、「籠」であっても開閉扉を常に開け放したままにしておくことが可能であることは明らかであるし、また引用例(甲第4号証)に、引用例考案の扉を開閉して、動物の出し入れを行なう旨の記載はないから、該主張はいずれも採用することができない。
(3) そうすると、引用例考案には、開閉扉のついた通常の檻、籠であって、その扉が開いた状態であるものも含まれるというべきであるから、前示のとおり、「小動物が自由に出入りできるようにした施設」の構成として、開閉扉のついた通常のケージ(籠)であって、単にその扉が開いた状態であるものを含む本願第1発明は、当該構成の点において、引用例考案と相違するものということはできない。
原告は、引用例(甲第4号証)に「加療を要する動物をゴム電導板13上に乗せて」(同号証2頁17~18行)と記載されていることを捉えて、引用例考案は、人手によって動物を「乗せる」ものであり、動物が、人手によらずに、その習性によって自ら「乗る」という思想を窺うことはできないとも主張するが、引用例の該記載のみから、引用例考案において、特に開閉扉を開け放した状態にしておく場合であっても、動物が入手によらずに自発的に出入りすることが排除されているものとみることはできないから、原告のこの主張も失当である。
したがって、審決が、本願第1発明と引用例考案との相違点において「両者が実質的に相違しているということはできない。」(審決書6頁19~末行)とした判断に原告主張の誤りはなく、また、翻って、当該相違点につき「表現上相違している」とした点に、相違点の認定の誤りがあるということもできない。
2 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成5年審判第21772号
審決
東京都港区虎ノ門1丁目11番2号
請求人 株式会社 白寿生科学研究所
東京都中野区中野2丁目14番20号 エクセレント中野101号
代理人弁理士 松永善蔵
平成2年特許願第215421号「動物用飼育保健、治療器」拒絶査定に対する審判事件(平成8年2月28日出願公告、特公平8-17825)について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
本願は、平成2年8月15日の出願であって、その請求項に係る発明は、出願公告後の平成8年11月25日付け手続補正書により補正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1~7項に記載されたとおりのものと認められるところ、同第1項は以下のとおり記載されている。
「小動物が自由に出入できるようにした施設に、一極または二極またはそれ以上の電極を取り付け、これらを電圧発生部に接続したことを特徴とする動物用飼育保健、治療器。」
これに対して、当審における特許異議申立人中島健次が甲第1号証として提示した、本出願前頒布された実願昭48-121253号(実開昭50-64583号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムには、
「交流電源を倍電圧整流回路によって整流し、これを出力電圧の選択できる分割器を経て牛馬等の家畜を乗せ得る大きさに形成したゴム電導板13に接続し、電導板の下面に絶縁板12を敷設してなる動物用直流静電治療装置」(実用新案登録請求の範囲)について記載され、「本考案は、交流を直流として、この電位を牛馬等の家畜或いは愛玩用小動物に印加することにより、動物体内に負イオンを誘起させる動物用直流静電治療装置に関するものである。」(明細書1頁)、また「図面は、静電治療装置の回路図で、これに動物用のマットを接続したものである。即ち変圧器1……の2次側には……から構成される倍電圧整流回路が接続されている。……かくして得られた負電圧は、絶縁板12上のゴム電導板13に接続して、加療を要する動物をゴム電導板13上に乗せて5分~10分の帯電治療を施すのであって、この電導板及絶縁板よりなる極板に対しては、檻を設けてその下敷きとして使用し、また小動物に対しては、籠内に敷設するを可とす。」(明細書2~3頁)と記載されており、そして、図面には、倍電圧整流回路から1本の線が伸びゴム電導板13に接続しているものが示されている。
本願特許請求の範囲第1項記載の発明(以下「本願第1発明」という。)と上記甲第1号証に記載されたものを対比すると、
甲第1号証には「電位を……………愛玩用小動物に印加する」と記載されているのであるから、甲第1号証記載の治療装置は小動物をも治療対象とするものである。
また、甲第1号証の図面には、倍電圧整流回路から1本の線が伸びゴム電導板13に操続しているものが示されており、また、甲第1号証には「この電導板及絶縁板よりなる極板に対しては、檻を設けてその下敷きとして使用し、また小動物に対しては、籠内に敷設するを可とす」と記載されており、この極板である電導板は電圧発生部から1本の線で接続されていて他に電極も見あたらないところからすると、甲第1号証の電導板は一極の電極とみることができる。
また、甲第1号証の檻または籠は一種の施設というべきものであり、そこへ動物を入れたりそこから出したするものであることは自明なことである。
そうすると、本願第1発明と甲第1号証のそれは「小動物が出入できるようにした施設に、一極または二極またはそれ以上の電極を取り付け、これらを電圧発生部に接続したことを特徴とする動物用飼育保健、治療器。」である点で一致している。
そして、本願第1発明では、治療が行われる施設が「小動物が自由に出入りできるようにした施設」であるとしているのに対し、甲第1号証のそれでは単に檻とか籠とかいうものである点で表現上相違している。
そこで、この相違点について検討する。
本願の特許請求の範囲2には「施設を小動物のケージなどとしたことを特徴とする請求項1記載の動物飼育保健、治療器」と記載され、同様な記載は発明の詳細な説明にもあり(特公平8-17825号公報3欄21~22行)、また、「第2図は、合成樹脂材で形成しなケージ(1’)に、…………………。また開閉扉(4)も絶縁材で形成し、通常は開いた状態で使用する。(後述の第3図、第4図参照)」とも記載され(同公報4欄13~19行)、さらに、第2~4図には開閉扉を有するケージが示されている。
このような記載からみると、本願第1発明の「小動物が自由に出入りできるようにした施設」とは明細書や図面に示されるような開閉扉を有するケージ(即ち、檻や籠)を含むものと解さざるを得ない(扉は開いた状態で使用するとしても、本件が方法の発明ならともかく、治療器という物の発明である以上、そうみざるを得ない。)。
一方、甲第1号証には、その檻や籠が開閉扉を有するか否かについては明確な記載はない。
しかし、檻や籠には動物を出入りさせるための開閉扉を有するものは極く普通のものであるから、甲第1号証にはそのようなことは記載されているに等しいということができる。
そうしてみると、この点(上記表現上の相違点)において両者が実質的に相違しているということはできない。
したがって、本願第1発明は、甲第1号証記載のものと区別することができないから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成9年10月13日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)